住み慣れた地域で暮らし続ける ~介護する家族の心にゆとりを持たせるために~

2018/09/05

結婚するまで稲を見たことがなかったと話していたAさんは、大正生まれで明るく努力家。30代で夫と死別し、田舎で働きながら3人の子供たちを育てあげました。子供たちの独立を期に都会での生活を希望し、利便性の良い地域に居住している二男家族と同居を始めました。
Aさんはこの地域が気に入り、近隣の人との交流や友人との旅行を楽しみながら過ごしていました。60歳で腰痛を発症しましたが、85歳まではひとりでシルバーカーを使用して電車での外出もできていました。85歳を過ぎた頃、自宅改築のための引越しがきっかけで、認知症の症状が現れ、移動や排せつなど生活全般に介護が必要な状態になりました。自宅で介護を受けていましたが、家族はしっかり者のAさんの症状が進行して行くことを受け止めきれず、心身ともに疲弊し、それまでためらっていた老健への入所を決めました。
その後Aさんは体調を崩し、病院に入院して寝たきりの状態になりました。Aさんは「自宅に帰りたい」と切望し、二男家族はAさんの気持ちを受け止め、自宅での介護を選択しました。 二男家族の介護を受けながら、子供や孫たちに見守られて住み慣れた自宅で穏やかに最期まで過ごすことが出来ました。
認知症の進行に伴い変化していく親の姿への戸惑いや、その状態を受け止めて対応していくことには難しさがあります。
要介護状態になり、住み慣れた自宅で生活を続けていくには、介護する家族が心にゆとりを持つこと。そのための支援の大切さを改めて強く感じているところです。

葉山クリニック ケアマネージャー城野 祥子