深刻な医師不足はなぜか?

2022/06/01

深刻な医師不足はなぜか

新型コロナでわかった社会保障の脆弱さ

 日本の保健医療の水準は平均寿命や乳幼児死亡率などの指標ではかつて世界一とも評されていました。しかし90年代から進められてきた保健所の統廃合や感染症病棟・急性期病床の削減などで、医療資源の縮小が進行していたことで混乱が生じました。
 新型コロナの第4波・第5波では医療崩壊が現実のものとなりました。重症者の病床使用率が7割から9割を超えるなど病床がひっ迫し、コロナ以外の患者さんを受け入れられないなど一般の患者さんを制限しなければならず、必要な医療を提供できないといった事態に陥りました。病床のひっ迫が深刻化し、宿泊療養や入院待機中に自宅で必要な医療が受けられないまま亡くなるという事例が相次いだことも記憶に新しいことでしょう。

先進国で最低の医師数

 新型コロナの感染拡大の下、地域の医療機関では発熱外来、PCR検査やコロナ感染患者の受け入れなどに対応しながら通常診療も行わなければならず、医師の人手不足が深刻化しています。先進国で最低の医師数を見直し、抜本的な医師増に舵を切るべきでしょう。日本の医師数が少ないことは統計からも明らかで、各国の人口1000人あたりの医師数では、ドイツの4・2人、フランスの3・4人、イギリスの2・8人と比べ、日本は2・4人と先進国の中でも特に少なくなっています。医療崩壊で話題となったイタリアでさえ4・0人、国民皆険がないアメリカでも2・6人と日本よりも多くなっています。主要先進国などで構成する経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、日本の医師数はデータのある30カ国中26位と最低に近く、医師総数で日本は32万人ですが、OECD30カ国の平均水準から見て11〜12万人も少なくなっています。

先進国の中で少ない日本の医師数

 先進諸国で最低レベルに近い医師数で世界でもトップの高齢化社会の医療を担うため、超長時間労働にならざるを得ません。過労死ラインを超えて働く勤務医が4割に達する中、今回のコロナ対応で長時間労働にさらに拍車がかかっています。

医師政策の転換を!!

 厚労省は22年度以降、医学部定員数を減らす予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、「新型コロナウイルス感染症が蔓延し、医療提供体制が逼迫する中で、医師養成数を削減することには問題があるのではないか」との指摘で臨時定員増を確保することを決定しました。しかし臨時であることに変わりはありません。
 厚労省の需給推計は、病床削減を目標とした地域医療構想を基本にし、受診抑制を度外視した上で、医師の過労死水準の年960時間の残業、さらに一部の医師には過労死ラインの倍近い1860時間の残業を強いることを容認したものです。医師の過酷な働き方を当然視した上で医師をさらに削減するものになっています。
 今回の新型コロナを教訓に、医療費抑制とりわけ医師数抑制策は抜本的に見直し、OECD水準並みを目指し医師増に向けて早急に政策転換するよう私たちも声を上げていきましょう。